「こども誰でも通園制度」の“ちぐはぐ”感 ~こどもの発達の視点はあるのか?~
研究所メルマガvol.06
2023年8月1日
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「こども誰でも通園制度」の“ちぐはぐ”感 ~こどもの発達の視点はあるのか?~
8月1日のNHK「おはよう日本」で「こども誰でも通園制度」が取り上げられていました。それを観ているうちに、次第に違和感を覚えていきました。一言で言えば、この制度が目指すものと報道が伝えようとすることの間にある、何か“ちぐはぐ”した感じです。もっと言えば、本来の趣旨や狙いと、報道するメディア、地方行政担当者、利用者、保育施設関係者それぞれの間にある微妙なズレです。
この「こども誰でも通園制度」については、6月13日に公表された「こども未来戦略方針」で次のように説明しています。
「全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備するとともに、全ての子育て家庭に対して、多様な働き方やライフスタイルにかかわらない形での支援を強化するため、現行の幼児教育・保育給付に加え、月一定時間までの利用可能枠の中で、就労要件を問わず時間単位等で柔軟に利用できる新たな通園給付(「こども誰でも通園制度(仮称)」)を創設する」
最大のポイントは、「全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備する」ことにあります。その延長線上に、「全ての子育て家庭に対して、多様な働き方やライフスタイルにかかわらない形での支援を強化する」ことが位置づけられ、そのためにも「就労要件を問わず時間単位等で柔軟に利用できる新たな通園給付を創設する」というものです。
「こどもまんなか」を標榜する政府、こども家庭庁であればこそ、こどもの育ちのために良質な成育環境を整備することを主眼に置いて、これまで「保育を必要とする」子どもしか対象にしていなかった保育を未就園児にも提供することにしたものです。もちろん、良質な成育環境の一環として、「孤立した育児」の中で不安や悩みを抱えている子育て家庭も視野に入れ、保護者に対する様々な支援も行うことも重視しています。
この制度は、今年度の新規事業である「保育所の空き定員等を活用した未就園児の定期的な預かりモデル事業」がベースとなります。同事業も、その狙いについて、「保育所等で定期的に預かることで、専門家による良質な成育環境を確保し、他児とともに過ごし遊ぶ経験を通じこどもたちの発達を促す」ことを強調しています。それと同時に、「育児疲れによる負担を抱える保護者に対する継続的な支援や、必要に応じて関係機関と連携した支援を行う」ことも目指します。
あえて繰り返しますが、モデル事業も「こども誰でも通園制度」も、第一義的に子どもの健やかな育ちや発達を促すことが主眼であり、併せて重要な子ども環境である子育て家庭の保護者に対する様々な支援を行うことに力を入れるということです。
そこが、従来の一時預かりとは大きく違うところです。現在の一時預かりは、幼稚園の預かり保育まで含む幅広いものになっていますが、一般的な一時預かりはかつての一時保育とほぼ同じものです。一時保育は、未就園児の保護者の病気や冠婚葬祭など緊急一時的に保育が必要になった場合に利用できる仕組みとして誕生し、現在は育児疲れや子育ての負担を軽減するリフレッシュ目的の場合も利用できるようになっています。
利用できる日数や時間等は、自治体や利用目的によっても異なりますが、例えば週1日程度(緊急一時、リフレッシュ)、連続して14日まで(保護者の病気入院)、あるいは月に合計120時間以内といったように、運用の実態は様々です。しかし、いずれの場合であっても、保護者の事情や状況に重きを置いた利用形態となっています。
それにもかかわらず、NHKの報道では、アナウンサーが「(こども誰でも通園制度は)保護者の育児負担の軽減などが目的となっています」と伝え、取材に当たった記者は「利用者のニーズを具体的に把握することと提供できるサービスとのバランスをしっかり見極めてほしい」とコメントしていました。これは、この制度と一時預かり(一時保育)の本質的な違いが理解できておらず、区別がついていないのだと考えられます。
モデル事業に関する国の資料では、「集団における子どもの育ちに着目した支援計画を作成し、適切な保育を行う」ことや、「保護者に対しては、定期的な面談などを実施し、継続的に支援する」ことなどを求めています。一時預かりの場合、子どもへの支援計画や保護者に対する継続的な支援などは想定しておらず、あくまでもスポット的な預かりがベースとなっています。
こうした「こどもまんなか」につながる大切な考え方が、メディアにも、地方自治体にも、保育施設側にも、ひょっとしたら国自体にも、十分に理解・共有されていないのではないか、ということが懸念されます。
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